若手医師にとって魅力ある法人であり続けるために
悠翔会の25クリニックの院長のうち、約3割を占める8名が40歳以下の若手医師です。在宅医療を取り巻く環境の変化に今後柔軟に対応していくためには、この若い院長たちの新鮮な感覚がカギとなると考えています。今回、「今後の法人運営」「若手医師が在宅医療を志すために求められるもの」という2つのテーマについて、座談会を行いました。
※2024年3月収録の内容を一部修正・加筆しています。肩書は当時のものです。
とぅもーる診療所 院長
岡本 淳一

悠翔会ホームクリニック知多武豊 院長
熊谷 祐紀

悠翔会在宅クリニックみもみ 院長
鈴木 優太郎

くらしケアクリニック城東 院長
田中 顕道

悠翔会在宅クリニック川崎院長
中野 麻里絵

悠翔会在宅クリニック横浜 院長
中村 高浩

悠翔会在宅クリニック葛飾 院長
松本 真一

ノビシロクリニック藤沢 院長
渡部 寛史

医療法人社団悠翔会 理事長
佐々木淳

タスクシフトの実現により
医師に求められる俯瞰的視点
佐々木 日本の社会は急速に大きな変化の時期を迎えています。健康保険制度存続の不確実性、患者さんの層とスタンスの変化、テクノロジーの急速な進化があり、5年後、10年後、在宅医療を取り巻く環境がどのように変化するか、予測が難しい状況です。今後、法人として生き残りを図るためには、柔軟さと、変わり続けることへの意欲が重要だと思っています。その際、カギになると期待しているのが、若い世代の感覚です。
本日は、今後の法人運営についての自由なアイデアと、若い医師に在宅医療を志してもらうためには何が求められるのかについて、意見を交わしたいと思います。まずは順番に、自由なご意見をお聞かせいただけますか。
熊谷 5年後、10年後を考えると、在宅医療における医師としての仕事は、徐々に看護師に移行していくと思っています。そうなったとき医師に求められるのは、地域の中で最適な役割を果たせるよう、全体を俯瞰する立場でかかわることではないでしょうか。今後、わたしたちにどのようなスキルが必要となるかを考えていく段階にあると思っています。
これまで複数の広域医療法人を見てきましたが、理事長が非医療職の法人では利益が優先されがちです。しかし、悠翔会では利益の追求の前に、理事長の佐々木淳が目指す方向性や理念があり、そこに賛同するメンバーが集まっている点が非常によいと思っています。
組織として最も大切なのは“志”だと考えますが、その“志”を共にする仲間がチームとして成長し続けている法人ですので、そこを共有できる若い方には参加していただきやすいのではないかと思います。
松本 2024年の診療報酬改定からは、訪問診療は軽症の人を施設で大勢診るのではなく、重症度・介護度・複雑性が高い人を居宅でしっかりと診る方向へシフトさせようという意図が明確に伝わってきます。そうなると、訪問診療に同行する看護師にも、現在の、医師のアシスタント業務以上の役割が期待されることになります。看護師も主体性をもって力を発揮できるようなチームへと、変わっていくことが必要です。当院にはコミュニティナースについて学んだ看護師が勤務しているため、クリニックでできる取り組みを進めていきたいと思っています。
若い医師に在宅医療の魅力をアピールするためには、やはり総合診療の研修プログラムの立ち上げは必須だと思います。今後積極的に、初期研修の関連施設になっていくことも大切です。
渡部 悠翔会が今後、地方でクリニックを開設したり、医療資源の乏しい地域のクリニックを承継したりするとき、開設時・承継時に院長となる“志”のある人が去ったあと、医療をいかに継続していくかという視点も非常に重要です。地域医療に興味があり、柔軟に動ける医師をプールし、都心部からそういった地域を支えるオンライン診療を組み合わせることも必要だと思います。医師以外のスタッフがしっかりしていれば、どんな院長が着任したとしても、診療は続けていけるのではないでしょうか。
私はクリニック開設時からタスクシェアをしており、看護師にも、「同行は看護師でなくてもできるよ」と伝えてきました。それにより、看護師は、“自分たちが同行するからこその価値は何だろう”という意識を常にもって動いてくれています。
在宅医療を提供し続けるためには、“最期は家で過ごしたい”と自然に思える地域づくり、つまり在宅医療を続けられる地域そのものをつくっていく必要があると思っています。
中村 どのような状況であっても、我々が目指す在宅医療のかたちは変わりないと思います。悠翔会では法人発足当初から、かかわったすべての人を幸せに、そして何よりも患者さん・ご家族のニーズを最優先してきました。さらには診療や経営の質のみならず、価値観においても社会の規範となるべく、日々の診療に従事しています。また、わたしたちは法人内に留まらず、地域社会全体に普遍的な価値観を発信し続け、成長し続ける集団でありたいと考えています。
こういった法人の理念に共感する仲間たちが集まり、切磋琢磨することで、個人として、そして法人全体としても成長していると実感しています。
これらは個々人のみで実現することは困難であり、法人内の医師、看護師、コメディカルのみならず、地域で活躍している訪問看護師、ケアマネジャー、介護福祉士、そして関連する医療機関・介護事業所との密な連携、情報共有が必須となります。“志”を同じくする仲間が一人でも多く増えるように、わたしたちは日々活動しています。
鈴木 悠翔会在宅クリニックみもみは、2025年4月に開院しました。悠翔会の千葉県内の大きな2つのクリニック、稲毛と船橋のちょうど真ん中に位置したことや、稲毛のメンバーの一部が中心となって開設準備を進めたこともあり、立ち上げ早期から勉強会などさまざまな取り組みを続けてきました。
「かかわったすべての人を幸せに」という法人の基本理念を大切にし、特にみもみでは、地域で同じく在宅療養を支える訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を巻き込んで、学びを通した交流の場を設けてきました。
テクノロジーが進む中でも、地域のみなが顔の見える関係づくりを続け、独学に委ねられる部分が多いからこそ学びの場に参加し、それぞれが言葉を交わしている。そんな姿を見ると、大切な取り組みで意義のあるものだと感じています。
これらの活動報告をクリニックメンバー全員で制作していたときに、「支える人を支える」という新たなコンセプトが生まれました。
キャリアパスを示すことで
若手医師が安心して学べる環境に
平野 悠翔会在宅クリニック春日部は、開設から4年が経ちましたが、新規の患者さんが毎月30名以上という状態が続いています。今後、軽症者については、タスクシフトで看護師が担当するというのは一つの方法かと思います。また、看護師が患者さん宅でオンライン診療を補助し、医師が遠隔で対応することで、多くの患者さんを診られるようになるのではないかと、院長と共に検討中です。
以前、研修医を受け入れている病院に勤務していた経験から、研修医は自分がそこでスキルアップできるかどうかを重視しますので、在宅医療と親和性の高い総合診療や家庭医の研修プログラムを整えることは重要だと思います。
一方で、私もそうなのですが、セカンドキャリア、サードキャリアとして在宅医療を選択する医師も多くいます。その方たちが途中で挫折することなく、自信をもって在宅医療に取り組んでいけるような教育が非常に大切ではないかと思っています。
佐々木 平野先生はまさに、セカンドキャリアで外科から在宅医療へ転向されていますよね。春日部は非常に合理的なオペレーションを実現していて、緻密に改善を重ねているクリニックです。看護師のオンライン診療も非常によいと思うのですが、現状ではそういった看護師の動きが全く評価の対象となっていないことを考えると、訪問看護のようなかたちにするなど、別の方法も考えていかなくてはならないとも思います。
岡本先生は職歴もまだ短いのですが、離島という厳しい地理的条件でありながら、スタッフを上手にまとめてくださっています。
岡本 悠翔会に転職する前に勤務していた在宅医療を行うクリニックでも、副院長のような立場で運営をみてきました。その経験がとぅもーる診療所の院長としてのふるまいかたに生きてる部分もありますが、組織のリーダーとして人をまとめる機会はなかったので、石垣島で貴重な経験を積んだことで、視野も広がったと感じています。
沖縄特有なのかどうか定かではありませんが、沖縄本島のくくるホームケアクリニック南風原も当院も、看取りの多いクリニックです。在宅で受け持った患者さんは、基本的にお看取りまで当院でかかわりたい。患者さんにもそう思っていただけるような診療をしていければ、自ずと看取り率は100%に近づくのではないかと思っています。
法人の理念「かかわったすべての人を幸せに」を実践しているスタッフが実際に周囲にいると、同じベクトルを向いて成長していけるのではないでしょうか。
私は元々大学で健康科学を専攻していましたが、その中でがんの転移に興味をもちました。また、東日本大震災直後の健康調査ボランティアでの、すてきなベテラン在宅医と出会いが、在宅緩和ケア医を目指すきっかけになりました。若い人には、先輩医師とのよい出会いがあればと思います。在宅医療がどのようなものか、その風景を目にする機会が若い人にはありません。当サイトに掲載されている、理事長の「ある1日の流れ」は、在宅医療ならではの特徴もわかり、参考になると思います。
中野 悠翔会在宅クリニック川崎には、最近、新しい医師が数名入職しました。これまで総合診療医や家庭医として勤務してきた医師ばかりではないため、専門領域以外を独学で学ぶ必要があります。現場で指導しますが、わたしたちも元々が総合診療の専門家ではないため、新入職の医師が在宅医療について勉強する機会があればよいと思います。
診療面だけでなく、例えば介護保険制度についても、入職時には理解できていないことがほとんどです。法人として入職時に学ぶ機会を設ければ、スムーズに仕事を始めることができるのではないでしょうか。
若い先生たちには、先を見て、総合的に今どうしたらよいかと考える力が備わっていない方も多いと感じます。その方たちに指導するために、まずは自分たちも学ぶ必要があると思っています。
田中 在宅医療や家庭医療、総合診療の魅力は、医師を含むチームで外部の方たちとコミュニケーションをとりながら、医療以外の課題もみんなで解決していけることにあると思っています。「悠翔会と組むと、みんなが気持ちよく動けるよね」と言ってもらえるのが、悠翔会ブランドではないでしょうか。
若い医師にも、こういった活動に興味をもつ方はいると思います。ただ、最初は“町のお医者さん”に憧れて医師になっても、卒後、「まずは専門性を身につけるべき」と言われ続け、キャリアの最初の段階から在宅医療や家庭医の道に進むことがキャリアパスの選択肢として想定できていないことが課題です。ですから、例えば後期研修修了後であってもキャリアが積めることをきちんと示せれば、在宅医療を選ぶ方は増えるのではないかと思います。
看護師が主体的に動くことで
患者の“担当”は主治医からクリニックへ
佐々木 ありがとうございます。ここからは、お互いの発言で興味をもった部分について議論していきたいと思います。
渡部 私の印象だと、平野先生の春日部は患者さんが多くてとても忙しいけれども、スタッフもある程度そろっている。それに比べて熊谷先生の知多武豊では、スタッフ数が多くない分、さまざまな仕事ができる人を育てて少人数で回す、という構造になっているのではないかと感じます。
当院はオンコールを看護師がとるため、連絡があったときにまず自分たちが困らないようにと、すべての患者さんについて把握するようになりました。しかし、このような「自分たちが動かなければ」と感じる環境にない場合、看護師の動きは各自のモチベーションに委ねられてしまう可能性があるのではないかと思うのです。
熊谷 当院の場合、看護師は物品管理から相談業務、地域連携まですべて行います。毎朝8時40分から9時半までのミーティングを大切にしていますが、ディスカッションの中心となるのは看護師です。“主治医が診ている患者さん” ではなく“クリニックが診ている患者さん” という単位でみられるようにするためには、ディスカッションの時間が必要だと思っています。
佐々木 実は私が院長を務める悠翔会在宅クリニック稲毛も、似たような状況です。看護師がマルチタスクをこなすのに加えて、診療アシスタントが病院向けの診療情報提供書の下書きまでしてくれます。稲毛でも朝の情報共有を大事にしています。申し送りにきちんと時間がかけられるような流れをつくるほうが、生産性の高い仕事ができる可能性はありますよね。
在宅医療のプラットホームとして
誰もが学べる機会を提供したい
田中 研修の体制を整え、若い医師に来てもらうという先程の話ですが、修了後も法人に留まってもらえればうれしいということはもちろん、ここで学んだことを地元に持ち帰り、質の高い在宅医療を広めてくれる人が増えるのもよいと思います。数年後に羽ばたいたのち、「悠翔会でキャリアを積んできたからこそ、今の自分がある」と感じてくれるといいと感じています。
それだけでなく、キャリアのどこかの時期で在宅医療に興味をもった人すべてが数年間学ぶことができ、それからの活動を後押しできる組織でもよいと思います。
佐々木 ここで学んだことを元に新しい取り組みを始める人や、ご自分の地域に在宅医療を根付かせたい人も応援したい。悠翔会は、在宅医療のプラットホームとして機能すればよいのではないかと思っています。さまざまな人と協働しながら、在宅医療の新しい価値を生むための共通の基盤をつくりたいと思います。
田中 初期研修よりさらに前の、まだ何色にも染まっていない卒前教育の段階で、理事長が大学の講義を行うというのもよいと思います。学生時代から、訪問という病棟とは違うフィールドがあることを知ってもらえます。
現在、悠翔会が東京大学や帝京大学の学生を受け入れているのは、非常に意味のあることだと思っています。1日で何かを教えるのは難しいとしても、一度現場を経験していれば、それが数年後に花開くかもしれません。
中野 病院に勤務していると、家庭医や在宅医療について知る機会は限られています。在宅医療への転向は、自分としてはレベルアップのつもりでしたが、周囲にはレベルダウンととる人もいました。ただ、実際の在宅医療について伝えると、「在宅で、そこまでできるんだね」と理解してもらえます。地域の研修病院の地域医療研修で来てもらうなど、研修医や学生の受け入れをもっと増やしてもよいかもしれません。一般内科医や専門内科医として勤務したあとに、選択肢として在宅医療を考えてもらうきっかけとなるのではないかと思います。
佐々木 悠翔会の一番の財産は、在宅医療への熱い思いをもち、これまで各診療科で研鑽を積んできた経験豊かな医師が集まっていることだと思っています。皆さんと共に、若い方に在宅医療の魅力を十分に伝えられるよう、今後も取り組みを進めていきます。
略歴
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| 専門(学会等) | |
| 主な経歴 |